社長のページ『おいしい話』
Vol. 204 製麦
【2015.6.10】
ビールの原料は麦芽(malt:モルト)です。日本酒は麹カビがつくる糖化酵素(アミラーゼ)で米のデンプンを糖化しグルコースを造りアルコール発酵を行います。ビールは麦芽の糖化酵素で麦芽デンプンを糖化しマルトースを造り、アルコール発酵を行います。
麦芽の糖化酵素は大麦が発芽するとき、眠っていた糖化酵素が活性化され糖化力ができます。麦芽を造る工程をビール製造では製麦といいます。余談ですが全国精麦工業協同組合では精麦は食料用、飼料用や醸造用原料に加工することいいます。同じ「セイバク」でも文字も意味も違います。
麦芽を造る大麦は刈り取ったあとの休眠が明けているかどうかを発芽試験で確認します。発芽を確認して、製麦を始めます。大麦を一晩浸漬し、翌日水を取り替えます。4~5時間置きに水を取り替えます。何回か繰り返し洗浄ができたらもう一晩浸漬し、翌朝発芽槽に移動します。発芽は10~20℃以下の温度が適温です。冬に種まきをする大麦ですから発芽温度も低いのは当然だと気が付きました。4~5日間で発芽が終了します。発芽を止めるため60℃程度の熱風を送り込んで乾燥させます。丸一日掛けて良く乾燥します。乾燥により雑菌が繁殖せず糖化力を維持し、長期間保管できるようになります。
その後の焙燥温度の違いで各地、各種の麦芽ができます。焙燥後、根を完全に取り除き、1か月寝かすとビール用の麦芽が完成します。焙燥温度が高くなるほどビールの色が濃くなり香りや風味も変わります。
日本のクラフトビールのアイテムの名前はドイツビールやイギリスのビールの呼称を使ったものが多く、その呼称に合った麦芽を使うのが基本です。1994年、地ビールとして出発した小醸造家ビールを今はクラフトビールと呼ぶことが多くなりました。クラフトビールの種類はペールエール、ポーター、スタウトなどイギリスの上面発酵の製法の名前を使ったビールが多いのは、発酵期間が短く、タンクの数が少なくてすむ上面発酵酵母を使ったビールだけを造る設備だけの醸造所が多かったためでしょう。
日本の大手ビールの各社の大部分のビールはドイツ系の淡色麦芽を原料とし、下面発酵酵母を使い発酵期間の長いラガータイプのピルスナータイプのビールが殆どです。
エールビールを造るにはエール麦芽を使いますが、このエール麦芽はイギリス産のタンパク含量の少ない大麦を使用し、90℃前後で焙燥し特有の味と香りを付与します。淡色麦芽よりやや色が濃い麦芽です。この麦芽を使用することでボディー感のあるビールを造ることができます。
麦芽の焙燥温度がビールの色と風味に大きな影響を与えます。この温度と麦芽の呼び名の関係を喜多産業のホームページから転記します。
○低温乾燥(60℃以下)
低温焙燥(85~115℃) → ピルスナー麦芽、ペールエール麦芽
高温焙燥(160~220℃)→ アンバー麦芽、チョコレート麦芽、ブラック麦芽
○水分保持糖化乾燥(55~80℃)
焙燥(120~180℃) → カラメル麦芽、クリスタル麦芽
高温焙燥(220~230℃)→ ローステッド麦
この他に小麦の麦芽もビールに使います。小麦ビールの代表はドイツのヴァイツェンビールと呼ばれる下面発酵ビールです。
梅錦ビールは常時5種類のアイテムがありますが、全部で11種の麦芽を使っています。ボックにおいてはいつも9種類の麦芽を使って造っております。