vol.141 澄酒
「験なき、ものを思はずは、一杯の濁れる酒を、ぬむべくあるらし(大伴旅人)」

私は濁り酒と聞けばこの万葉集の歌を思い出します。

中世は、一般には濁り酒が飲まれたのでしょう。しかし、澄み酒という言葉も登場します。この時代の澄み酒は「もろみ」をそのまま置いておくと上澄みができます。この上澄みだけをすくったものでしょう。

  良く知られている鴻池氏の「清酒」発明の伝説があります。下男が主人への腹いせに、酒桶の中に灰を投げ入れたところ、酒が清澄になったという話です。この説話は江戸後期の「摂陽落穂集」「嬉遊笑覧」「北峰雑集」「修斉近鑑」などに出ているそうです。清酒は現在の法律用語で「セイシュ」と読みます。

 現在の酒税法で清酒の定義は「米、米こうじ、水を原料として発酵させてこしたもの(アルコール分が22度未満のもの)」  をいいます。「こす」という言葉は、固体と液体を分けるという意味です。今の清酒の造り方を東京大学公開講座「酒」の蓑田泰治先生の説明を引用します。

 「もろみを木綿あるいは化繊の酒袋に詰めて槽(ふね)という圧搾機の中に積んで、徐々に圧力をかけ、しぼる。

 しぼって出てきたのを次におり引きをする。ここに出てきたのは微粒子とか、酵母などがまだ残っていて、懸濁して白く濁った液である。これをタンクに静置して,下に沈んできた滓酒を下から抜き去り、上の上澄液は綿濾過、珪藻土濾過または炭素濾過などを行って清澄にする。滓は元のもろみに戻して、また圧搾するという形になる。」
 「酒」東京大大学公開講座(東京大学出版会)p251976年初版
 酒税法の「清酒」の定義はなぜ「こす」なのかは、
 酒税法では「しぼる」でなく「こす」です。搾るというのは、例えば酒袋に入れて圧力をかけて、個体と液体をわけるというイメージですが、酒袋から自然に落ちたものも、清酒ですよという意味で、法律用語は「こす」という用語を使ったのだと思います。

 濁り酒は一般には「どぶろく」と言ったほうが良くわかるのかも知れません。

 広辞苑では、滓を漉し取らない日本酒。にほりざけ。だくしゅ、しろうま。

ウイキペディアの説明は「炊いた米に米麹や酒粕等に残る酵母を加えて作る酒である。非常に簡単な道具を用いて家庭でも作る事も可能だが、日本では酒税法において濁酒(だくしゅ)と呼び、許可なく作ると酒税法違反に問われることがある。」

とありますが、太平洋戦争の後、お酒が不自由な時代には「どぶろく」は密造酒の代名詞でもありました。 
今は「どぶろく特区」といわれる少量のお酒を造る特別な免許があり、各地で町興しとして作られるようになりました。

 どぶろくは「清酒」より、品質が悪いお酒でした。明治になり、最初は制度が毎年のように変わりましたが、
「1971年(明治4)の酒株と酒造統制を廃止し、清酒・濁酒・醤油醸造免許鑑札を定め、免許料、清酒10両、濁酒5両と、免許税、稼人1人あたり清酒5両・濁酒1両2分の税をかける」という太政官令が出ています。

 このように、清酒が濁酒より税が安いのは、清酒が濁主より高級品であったのでしょう。
ところで、「もろみを酒袋に詰めて槽に積んで、徐々に圧力をかけ、しぼる。」という方法はいつの頃から始まったのかを書いた本を、私は探せ出せていません。
 酒槽で搾っているのが確認できるのは、寛政11年(1799年)日本山海名産図会の酒造り絵図です。伊丹の酒造りを図解で説明していますが、伊丹市のウェブサイトに絵図が載っています。

その絵図の最後に、槽2台で搾っている絵があります。この絵図の著者は大阪の木村蒹葭堂(けんかどう)という、酒屋で生まれた人だそうです。槽は当社でも「槽掛け雫」という品種で実際に使っているものと同じです。


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次回の更新予定は22年4月10日です。