vol.17 全国新酒鑑評会 (5) 〜麹〜

梅錦山川 (株) 社長山川 浩一郎  私の吟醸造りは熊本県酒造研究所 (以下研究所) で勉強したことが基礎になっています。私は1963年、国家公務員として滝野川の試験所といわれる国税庁醸造試験所に一年勤務し研修を受け、熊本国税局鑑定官室に転勤いたしました。
 酒造りが始まりますと、酒造りの基礎を勉強させてもらうため昼は鑑定官室、夜は研究所という生活にかわります。研究所での酒造りの作業は朝の5時頃から始まり、朝食前の8時までにはもとおろし、水麹などの仕込み準備が終わります。そして朝食後に仕込みをしますが、作業だけですので居なくても酒造りの勉強にはあまり関係がありません。


山根杜氏
↑仲仕事をする若かりし頃の
山根杜氏

 鑑定官室では、皆酒造りの指導で酒蔵を巡るため出払ってしまい、誰もいなくなってしまいますので、駆け出しの私が留守番役を仰せつかることになります。出勤さえしていれば昼寝をしていても構わないと言われていましたが、人の出入りがありますのでそうそう寝られるものではありません。
 勤務が終わると研究所に行って蔵の人達と一緒に食事をし、麹造りを勉強します。製麹の品質に関わる管理は夜間が主です。18時の“切り返し”、22時の“仕舞仕事”、その間の“積み替え”、朝4時の“出麹”を手伝い (邪魔) ながら温度計や破精 (はぜ) ※1回りや手触りを覚えます。


 研究所では松本杜氏と同じ部屋で寝起きしました。松本杜氏は結構冗談を言い、若い私たちをからかいます。


 室 (むろ) ※2にはりんごが置かれており、これを室に入れるから酒にいい香りが付くと言っていました。りんごの香りが酒まで持ち込まれるわけがないことまでは想像できますが、本当の意味はなんだろうと不思議に思っていました。実は吟醸麹を造る頃になると、他の蔵の杜氏さんも見に来て沢山の人が室で寝ることになり、室に立ちこめる人の臭いを消すために入れているのだ、と萱島先生から教えてもらいました。

出麹
↑出麹

床もみをしているところ
↑床もみをしているところ

 研究所の吟醸造りは白米の吸水を、蒸せるぎりぎりまで少なくして (限定吸水) 硬い蒸しに仕上げます。水分が少なく菌糸の生育が悪いので、温度を上げ麹の菌糸成長を助けます。35度で仲仕事をして短時間で最高温度まで持っていきます。最高温度は比較的高く、42度まで上げます。これはアミノ酸を作る温度帯 (37度付近) を出来るだけ短くすることと、破精の回りを少なくする製麹法です。


 これまでの小穴流といわれた低温で発酵させ酵母をいじめたとき良い香りが付くという考え方とは対照的な造りでした。

 しかし秋田酵母が開発され、秋田流といわれる吟醸造りが主流になります。この吟醸造りは良い香りを出すために醪の中に酵母が食べるグルコースがいつも沢山ある状態にしておくことを最大の目標に酒を造ります。製麹では床もみの時にまく種麹の胞子を極端に少なくし、破精回りをおさえ、製麹も長時間かけます。醪も低温で長期 (25〜35日醪) という方法がとられます。酵母をいじめて良い香りをださす考え方に戻ったともいえると思います。あるいはカプロン酸※3を沢山作る酵母に向いた造りなのでしょう。


※1 破精 (はぜ)
蒸米に種付けした麹菌が繁殖して菌糸が白く見えるようになった状態。
※2 室 (むろ)
麹を造る部屋。温度と湿度を管理できる。
※3 カプロン酸
鑑評会ではカプロン酸を作る酵母が金賞を取る可能性が断然高い。


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